自分で腕時計の電池交換をする前に必ず見るべき教科書【プロが格安工具で実演】

「時計の電池交換、自分でもできるのかな?」
「お店に頼むと高いし、工具を買って自分でやってみたい」
と思い、この記事を開いたあなた、こんにちは。
時計修理歴約30年、600人以上に技術を伝えてきた藤本です。
結論からお伝えすると、Amazonなどで売っている格安工具セットを使えば、初心者の方でも自分で電池交換を行うことは十分に可能です。
実際に私も検証のために2,500円ほどの工具セットを購入して試してみましたが、予想以上にスムーズに作業ができました。
本記事では、時計修理技能士として現場経験のある立場から、
・格安工具セットの中身と使える道具
・失敗しない電池交換の具体的な手順
・プロが教える「やってはいけない」注意点
を体系的に解説します。この記事を読めば、リスクを理解した上で、安全に自分で電池交換を行うための道筋を理解できます。
記事元となった動画もあわせてご覧ください。
目次
格安工具でも電池交換は可能か?

「時計修理の工具は高くて専門的」というイメージがあるかもしれませんが、最近はネット通販で安価なセットが手に入ります。
まずは、実際に私が購入したセットを例に、その実用性を解説します。
2,500円で80点入りの工具セットを検証
今回私が検証のために用意したのは、ネットで購入したおよそ2,500円の工具セットです。
驚くべきことに、この一箱になんと80個ものアイテムが入っていました。通常、日本製のプロ用工具でこれだけの数を揃えようとすると、数万円はかかります。
それが数千円で手に入るのですから、これから「自分でやってみたい」と考えている方には非常に魅力的であり、コストパフォーマンスは高いと言えます。
実際に使う道具はほんの一部

80点も入っていますが、実際の一般的なクォーツ時計の電池交換で使うのは、以下の4点ほどです。
1. 裏蓋オープナー(蓋を回して開ける道具)
2. ケース万力(時計を固定する台)
3. バネ棒外し(ベルトを外す道具)
4. ピンセット(電池を掴む道具)
これらが入っているセットであれば、基本的な電池交換には対応できます。
逆に言うと、使わないピン抜きやドライバーなども大量に含まれているため、自分の時計に必要な工具だけが入っているシンプルなセットを選ぶのも一つの手です。
時計の電池交換方法の全手順
実際に私が「セイコー クロノグラフ」を使って行った手順を元に、具体的な交換方法を解説していきます。
1. ベルトを外して作業スペースを確保する

いきなり裏蓋を開けようとする方がいますが、これはNGです。
ベルトがついたままだとケース保持器に固定できず、不安定になり怪我や傷の原因になります。まずは「バネ棒外し」を使って、ベルトの片側を外しましょう。
工具の先端(Y字になっている方)をバネ棒の隙間に差し込み、縮めて外します。
この時、バネ棒が「ピーン!」と勢いよく飛び出して紛失する危険性があるので、指で押さえながら慎重に作業してください。
2. 時計を固定して裏蓋を開ける

ベルトを外したら、時計を「ケース万力」にセットして固定します。
手で持って作業すると力が入りにくく、滑って裏蓋に傷をつける原因になります。
今回使用した格安の万力には、クロノグラフのプッシュボタンを避けるためのへこみがついており、意外にもしっかりと固定できました。こうした形状への配慮があるかは重要なポイントです。
次に「オープナー」を使って裏蓋を回します。

スクリューバック(ねじ込み式)の場合、裏蓋にある6箇所の溝のうち、対角線上にある2箇所に爪を合わせて反時計回りに回します。
この時、力が逃げて工具が滑ると、一瞬で裏蓋が傷だらけになるので、上からしっかり押さえつけながら回すのがコツです。
3. 電池の型番を確認して交換する

裏蓋が開いたら、中にあるパッキンを無くさないように注意しつつ、古い電池を取り出します。
ここで一番重要なのは、「新しい電池の型番」を間違えないことです。電池の表面には「SR927SW」のような極小の刻印があります。
これはサイズと電圧・種類を表しているので、必ず同じ型番の電池を用意してください。

そして、新しい電池を入れる際は、絶対に素手で触らないでください。
指の油がつくと接触不良の原因になります。ピンセットを使って所定の位置に収めましょう。
4. 動作確認をして蓋を閉める

電池を入れたら、すぐに蓋を閉めるのではなく、時計をひっくり返して秒針が動いているか確認します。
クロノグラフの場合はスモールセコンドを見ます。動いていることを確認したら、パッキンをセットして裏蓋を閉めます。
最初は指の力で回し、ある程度締まったら最後にオープナーを使ってしっかりと締め込みます。
締め付けが甘いと、使用中に蓋が緩んだり湿気が入ったりする原因になります。
最後にベルトを戻します。バネ棒を縮めて穴に入れ、「パチッ」という音がするまでしっかりハマっているか確認して完了です。
プロから見た「自分でやる」際のリスクと感想
今回、格安工具で作業してみましたが、思った以上にスムーズにできました。
しかし、プロとして注意喚起しておきたい点もあります。
工具の精度には限界がある
格安工具の場合、先端の形状が完璧にフィットしないことがあります。
今回使用したオープナーも、先端の断面が「丸い」形状でした。対して時計側の溝は四角かったため、接触面積が少なく、滑りやすい状態でした。
今回は裏蓋がそこまで硬くなかったので開きましたが、もし固着して硬く締まっている裏蓋の場合、こうした精度の低い工具で無理に開けようとすると、滑って大怪我をしたり、時計を修復不可能なほど傷つけてしまうリスクがあります。
あくまで自己責任の世界
自分で電池交換をすれば、費用は電池代(数百円)だけで済みます。
しかし、防水性能の保証はなくなり、万が一コイルを切ってしまったり傷をつけたりした場合の修理費は高額になります。
「安く済ませたい」というだけでなく、時計の仕組みを知りたい、自分でやってみる工程を楽しみたいという方には、こうしたキットを使って挑戦するのは非常に良い経験になると思います。
もし「自分には難しそうだな」「硬くて開かないな」と感じたら、無理せずプロに依頼するのも賢い選択です。
そして、時計修理について学びたいのであれば、「オンラインで学ぶ」という選択肢を検討してみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この記事はオンラインウォッチアカデミーの講師である藤本が監修しています。
藤本信和
一級時計修理技能士。1973年東京都生まれ。
大学にて家具デザインを専攻、卒業後ヒコ・みづのジュエリーカレッジ
ウォッチメーカーコースに通い、時計修理の世界へ。
時計店ではあらゆる修理・受付販売などに携わり、
その後東京のヒコ・みづのジュエリーカレッジにて講師として10年間で、
学生とキャリアスクールの社会人約600人に教える。
21年4月より東京都千代田区飯田橋に自身の工房、Foliot(https://foliot.co.jp/)を構える。
好きな時計はROLEX。趣味はカーレース(軽自動車の耐久レース)