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腕時計の油は自分でさせる?プロ目線から徹底解説

時計の油について解説しているYouTube動画のサムネイル

※この記事は、時計修理の現場で実際に起きているトラブルをもとに解説しています。

「時計の動きが悪いから、自分で油をさしてもいい?」
「ホームセンターの油やスプレーを使っても大丈夫?」


このような疑問をもち、この記事を開いたあなた、こんにちは。
時計修理歴約30年、600人以上に技術を伝えてきた藤本です。

結論からお伝えすると、時計に自己流で油をさすのは絶対にNGです。

古い油汚れを洗浄せずに上から油を足すと、油が変質したり、本来あるべき場所から流れ出して時計にとって「致命傷」となる故障を引き起こします。

参考までに、時計内部の歯車にさす油の量は、直径0.2mm程度の軸に対してごく微量のみ。これを守らないと、文字盤側に油が回ってシミになるなどの被害が出ます。

本記事では、時計修理のプロとして現場経験のある立場から、

なぜ「注油」だけではダメなのか

時計の油の役割と種類の多さ

プロが行う「エピラム処理」とは

を体系的に解説します。この記事を読めば、時計における「油」の奥深さと、正しいメンテナンスの必要性を理解できます。

記事元となった動画もあわせてご覧ください。

時計の油に関するよくある勘違い

油切れの実際の画像

時計好きの方でも、「油」に関しては大きな誤解をしていることが多々あります。

もっとも危険なのが、「自転車のチェーンのように、外から油をさせばいい」という考え方です。

油を足せば直るは間違い

勘違いを指摘している図

お客様から「時計の油が切れていると言われたから、上から振りかけるようにさせばいいんじゃないの?」と聞かれることが何度もあります。しかし、これは間違いです。

時計のムーブメントの中で油が必要な場所は決まっており、逆に「さしてはいけない場所」も存在します。

むやみにスプレーしたり、隙間から油を垂らしたりすると、不要な部分に油が回り、故障の原因になります。

洗浄せずに油をさすのは逆効果

油が切れている時計は、古い油が劣化してこびりついている状態です。私たちはこれを「ガム化(粘り気が出て茶色のようになる現象)」と呼んでいます。

汚れた状態の上から新しい油を足しても、潤滑するどころか抵抗になり、歯車の軸を摩耗させてしまいます。

だからこそ、プロは必ず分解掃除を行い、部品を完全に洗浄してから新しい油をさします。

時計の油は「適量」と「種類」が命

油をさしてはいけない箇所があることの注意喚起

時計の油は、ただ濡れていればいいわけではありません。「量」「使い分け」が非常にシビアな世界です。

油が多すぎると流れるリスクがある

最悪の場合、動かなくなったり精度が狂うことを表している図

時計の油は、少なすぎてもいけませんが、多すぎてもいけません。

例えば、歯車の軸(直径0.2〜0.3mm)にさす油の量は、針の先ほどの微量です。

もし多すぎるとどうなるか。キッチンでサラダ油をこぼすと広がるように、時計の油も「表面張力」によって隙間を伝って流れていきます

最悪の場合、機械の裏側から文字盤や針の方へ油が回ってしまい、修理では直せないシミを作ってしまうこともあります。

こうなると、もう取り返しがつきません。

場所によって油を使い分ける

実は、時計に使われる油は1種類ではありません。

・歯車の軸には「9010」という油

・爪石(つめいし)には「9415」という油

といった具合に、粘度や性質の違う油を使い分けています。

機械式時計であれば4種類ほど、クロノグラフになれば5〜6種類もの油を適材適所で使い分けなければ、時計は正常に動きません。

時計の油の進化とプロの工夫

油の紹介

時計の油も日々進化しており、プロはそれを最大限活かすための「処理」を行っています。

クジラの油から化学合成油へ

昔の古時計などには、クジラの油などの動物性油や鉱物油が使われていました。しかし、これらは劣化が早いため、現在は「シンセティックオイル(化学合成油)」が主流です。

高価ですが、長期間にわたって性能が安定しており、蒸発や変質が少ないのが特徴です。

この3つのポイントを守るだけで、時計のトラブルは激減します。

油を留める「エピラム処理」

さらにもう一つ、プロならではの技術として「エピラム処理」があります。これは、フッ素系の薬品を使って部品の表面をコーティングする処理のことです。

この処理を施すと、さした油がその場に留まりやすくなり、勝手に流れ出すのを防ぐことができます。

お客様からは見えない部分ですが、数万円もする高価な薬品を使い、油の効果を長持ちさせる工夫をしています。

セルフメンテナンスは絶対にやめよう

最近はネットで工具や油が手に入りますが、知識のない状態での注油は「百害あって一利なし」です。

セルフ注油は致命傷になる

自分で蓋を開けて適当な油をさそうとしている人がいたら、私は全力で止めます。それは時計にとって「致命傷」になりかねないからです。

油が流れて文字盤を汚したり、種類の違う油が混ざって固着したりすれば、結局はプロに依頼しても高額な修理費がかかるか、最悪の場合は修理不可となってしまいます。

・油は「足す」のではなく、洗浄してから「入れ替える」もの

・種類や量を間違えると、時計を壊す原因になる

・プロは「エピラム処理」などで油を制御している

ご自身の時計を大切に思うなら、油切れのサインが出たときは、無理に自分で何とかしようとせず、プロの分解掃除を依頼してください。

また、自分の時計を自分で見れるようになりたい!という方はオンラインで時計修理を学んでみませんか?

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。


この記事はオンラインウォッチアカデミーの講師である藤本が監修しています。

藤本信和

一級時計修理技能士。1973年東京都生まれ。
大学にて家具デザインを専攻、卒業後ヒコ・みづのジュエリーカレッジ
ウォッチメーカーコースに通い、時計修理の世界へ。

時計店ではあらゆる修理・受付販売などに携わり、
その後東京のヒコ・みづのジュエリーカレッジにて講師として10年間で、
学生とキャリアスクールの社会人約600人に教える。

21年4月より東京都千代田区飯田橋に自身の工房、Foliot(https://foliot.co.jp/)を構える。
好きな時計はROLEX。趣味はカーレース(軽自動車の耐久レース)