プロが教える腕時計の置き方、結局どれがいい?結論を出します。

「毎日外した時計、どうやって置くのが正解なの?」
「リューズを下にして置くと壊れるって本当?」
このような疑問をもち、この記事を開いたあなた、こんにちは。
時計修理歴約30年、600人以上に技術を伝えてきた藤本です。
結論からお伝えすると、そっと置くのであれば、平置きでも横置きでも、どちらでも大丈夫です。
ネット上には「傷がつくから平置きはダメ」「リューズを下にするな」といった様々な意見がありますが、私たち修理技術者の視点から見ると、そこまで神経質になる必要はありません。
本記事では、時計修理技能士として現場経験のある立場から、
・「平置き」で裏蓋に傷がつく問題について
・リューズを上にするか下にするか論争の結論
・プロが修理中に実践している置き方とその理由
・置き方で時計の精度が変わる「姿勢差」の話
を体系的に解説します。この記事を読めば、時計と長く付き合うための正しい置き方を理解できます。
記事元となった動画もあわせてご覧ください。
目次
腕時計の置き方:平置きはダメなのか?

最も一般的な置き方が、机の上に文字盤を上にして置く「平置き」です。
しかし、金属ブレスレットの時計の場合、裏蓋とブレスレットが当たって傷がつくので注意が必要という説をよく耳にします。これについて解説します。
そっと置くなら傷は気にしなくていい
私の結論としては、日常使いの時計なら、そっと平置きして全く問題ありません。
確かに平置きした場合、構造上どうしても裏蓋とブレスレットは接触します。しかし、ガチャン!と乱暴に置かない限り、実用上問題になるような深い傷が入ることはありません。
もしこの接触による小傷を完全に防ぎたいなら、置くたびに間に布を挟んだり、毎回箱にしまったりする必要がありますが、毎日使う時計でそれをやるのは現実的ではないですよね。
私は、時計は実用品であり、使えば多少の傷はつくものだという前提で考えています。
車と同じで、日常的に使ってできた傷は、その時計と過ごした時間の証であり愛着でもあります。あまり神経質になりすぎず、そっと置くことだけ意識すれば十分です。
販売店や研磨直後は別

ただし、例外もあります。
お店のショーケースにある新品の商品や、修理でケース研磨をした直後の時計、あるいは傷がつきやすい金無垢の時計などは別です。
これらは無傷であることに価値があるため、私たちプロも絶対にブレスレットと裏蓋が触れないように、保護シートを挟んだり工夫して置きます。
しかし、皆さんが普段使いする相棒としての時計であれば、そこまでの配慮は不要です。
横置きの場合:リューズは上か下か?

ブレスレットが硬くて平置きできない場合や、バックルが輪っか状になっているタイプの場合は、時計を横向きに置くことになります。
この時、「リューズを上にするべきか、下にするべきか」という議論がよく起こります。
結論:どちらでも大丈夫
これも結論を言ってしまうと、「どちらでも大丈夫」が正解です。
もし10人の時計技術者がいたら、9人はどちらでも大丈夫と答えるはずです。
リューズを下にすると、その重みで巻真やムーブメントに負担がかかるのでは?と心配する声もありますが、時計自体の重さで内部パーツが変形したりダメージを受けたりすることは、構造上まず考えにくいです。
もちろん、これも「ゴトン!」と音が出るような置き方はNGですが、そっと置く分には、リューズ側を下にして支点にしても、内部機構への悪影響は心配いりません。
広告写真がリューズ上なのは見た目の問題

よく時計の広告写真や宣伝でリューズが上になっているのは、単にその方が安定して見えたり、リューズのロゴが見えやすかったりする見た目の理由が大きいです。
また、リューズを下にすると不安定に見える場合もあるため、撮影上の演出として上に向けていることが多いのです。機能的な正解・不正解ではないので、ご自身の置きやすい向きで置いてください。
置き方で時間のズレが変わる
実は、置き方を気にするべき本当の理由は傷や故障ではなく、精度にあります。
機械式時計には、置く向きによって進み遅れが変わる「姿勢差」という性質があるからです。
上級者は置き方で時間を調整する

機械式時計は、どんなに高級なものでも1日に数秒〜十数秒のズレが生じます。
しかし、このズレ方は「文字盤上の時は進みやすい」「リューズ下の時は遅れやすい」といったように、姿勢によって変化します。
このクセを知っている上級者は、日中使って10秒進んでしまったから、夜寝る時はあえて遅れる姿勢で置いて、プラスマイナスを相殺しよう。といった高度な使い方をすることがあります。
ただ、どの向きでどうズレるかは時計の個体差によるので、この置き方が正解とは一概に言えません。「あいつの時計はリューズ上で遅れるらしいから、俺もそうしよう」と思っても、自分の時計は逆に進んでしまうこともあり得るのです。
修理中は「平置き」が基本
ちなみに、私たち修理技術者が作業中に時計を置く時は、クッションなどは使わず、作業マットの上にそっと平置きします。
これは、毎日同じ条件で精度を測定したいからです。
クッションに乗せると座りが悪く不安定になり、正しいデータが取れなくなってしまいます。
修理現場では、傷などのリスクよりも安定した状態で数値を測ることが優先されるため、あえてシンプルに文字盤を上にして置いています。
大切なのは、「ガチャン!」と乱暴に置かないことだけ。あまり細かいルールに縛られすぎず、リラックスして愛機との時間を楽しんでください。
そして時計についてさらに深く知りたいのであればこちらをご確認くださいね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この記事はオンラインウォッチアカデミーの講師である藤本が監修しています。
藤本信和
一級時計修理技能士。1973年東京都生まれ。
大学にて家具デザインを専攻、卒業後ヒコ・みづのジュエリーカレッジ
ウォッチメーカーコースに通い、時計修理の世界へ。
時計店ではあらゆる修理・受付販売などに携わり、
その後東京のヒコ・みづのジュエリーカレッジにて講師として10年間で、
学生とキャリアスクールの社会人約600人に教える。
21年4月より東京都千代田区飯田橋に自身の工房、Foliot(https://foliot.co.jp/)を構える。
好きな時計はROLEX。趣味はカーレース(軽自動車の耐久レース)